『シーシュポスの神話』『偶然の音楽』ほか - 2016年3月に読んだ本まとめ
はじめに
「涼風の一過、汗の蒸発、……それと共に消え去る筋肉の存在。……しかし、筋肉はこのときもっとも本質的な働らきをし、人々の信じているあいまいな相対的な存在感覚の世界を、その見えない逞しい歯列で噛み砕き、何ら対象の要らない、一つの透明無比な力の純粋感覚に変えるのである。もはやそこには筋肉すら存在せず、私は透明な光りのような、力の感覚の只中にいた。」
2016年3月に読んだ19冊です。
今月は「海外文学」「評論・エッセイ」「理系っぽい本」の3つに分けて紹介します。いつもと比べて評論が充実していました。
各本について、タイトル・リンク・読書メーターに書いた感想(一部追加・修正あり・非ですます調)の順に記します。気に入った文の引用も。↓↓↓
3月に読んだ本(タイトル一覧)
■クヌルプ (新潮文庫)
■長距離走者の孤独 (新潮文庫)
■光あるうち光の中を歩め (新潮文庫)
■人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)
■柳宗民の雑草ノオト (ちくま学芸文庫)
■パルプ (新潮文庫)
■人間の絆 下巻 (新潮文庫)
■ロボット (岩波文庫)
■ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)
■シーシュポスの神話 (新潮文庫)
■日々の泡 (新潮文庫)
■園芸家の一年 (平凡社ライブラリー)
■巨匠とマルガリータ(上) (岩波文庫)
■巨匠とマルガリータ(下) (岩波文庫)
■偶然の音楽 (新潮文庫)
■太陽と鉄 (中公文庫)
■脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方
■行動学入門 (文春文庫)
■ジムに通う人の栄養学 (ブルーバックス)
以下詳細↓
海外文学
振り返ってみると、「人生の意味(無意味)」に関する小説が多かったように思います。
■偶然の音楽 (新潮文庫)
- 作者: ポールオースター,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/11/28
- メディア: 文庫
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その後迎えるラストは不条理とも解釈できるが、個人的にはこれで終わりではないと思う。ナッシュがテレーズの持ち物を捨て去ったとき、痛みを感じつつも過去の自分を遠ざけることで「新しい世界の誕生の幕を開ける炸裂」を感じたことを鑑みれば、本作品のラストも同様に再生・過去との決別を意味しているのではないだろうか? 奇しくもフラワーが「(時間に抗う巨大な防壁のような壁が)人間みんなが自分のなかに抱えておる過去を弔う歌を歌うのです」と語った通り、ナッシュの積み上げた石の壁は、過去を弔う証として厳然と存在するのだ。
■ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)
- 作者: オマル・ハイヤーム,小川亮作
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1979/09/17
- メディア: 文庫
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地の表にある一塊の土だっても、
かつては輝く日の面、星の額であったろう。
袖の上の埃を払うにも静かにしよう、
それとても花の乙女の変え姿よ。
酒をのめ、それこそ永遠の生命だ、
また青春の唯一の効果だ。
花と酒、君も浮かれる春の季節に、
たのしめ一瞬を、それこそ真の人生だ!
■クヌルプ (新潮文庫)
- 作者: ヘッセ,高橋健二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1955/04/01
- メディア: 文庫
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ふたりの人間のあいだには、たとえどんなに密接に結ばれていても、いつも深淵が口を開いていること、それを超えうるのは愛だけで、その愛もたえず急場しのぎの橋をかけることによってかろうじてそれを超えうるのだということを、私はまだ経験していなかった
そして今こそ、クヌルプの意見によるとすべての人がその中に生きている孤独、しかし私はついぞどうしても信じる気になれなかった孤独を、自分で味わわねばならなかった。孤独は苦かった。あの最初の日だけではなかった。そのうちいくどか明るくなりはしたが、孤独はそれ以来もう完全に私から離れようとはしない
■人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)
- 作者: モーム,中野好夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/04/24
- メディア: 文庫
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いろんな経験が、してみたいのだ。人生の準備には、もううんざりした。今こそ、生きてみたいのだ
フィリップにとっては、人生とは写すよりも、まず生きるべきだという気がした。そして、さまざまな経験を探し求め、それが与えるあらゆる感動を、生の一瞬、一瞬から、もぎとりたいと思った
■人間の絆 下巻 (新潮文庫)
- 作者: モーム,中野好夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/04/24
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ミルクをこぼして泣くのは無駄。というのはだね、この宇宙に、ありとある一切の力が、いわば寄ってたかってミルクをこぼそう、こぼそう、としているんだからね
…そして人生の終りが近づいた時には、意匠の完成を喜ぶ気持、それがあるだけであろう。いわば一つの芸術品だ。そして、その存在を知っているのは、彼一人であり、たとえ彼の死とともに、一瞬にして、失われてしまうものであろうとも、その美しさには、毫も変りないはずだ
- 作者: ブルガーコフ,水野忠夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/05/16
- メディア: 文庫
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- 作者: ブルガーコフ,水野忠夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/06/17
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私につづけ、読者よ。まぎれもない真実の恋などこの世に存在しないなどと語ったのは、いったい誰なのか。こんな嘘つきの呪わしい舌なんか断ち切られるがよいのだ
■パルプ (新潮文庫)
- 作者: チャールズブコウスキー,Charles Bukowski,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/03
- メディア: 文庫
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「おそれ入りますが」
セリーヌが奴の方を向いて言った。
「現在のご自分の金玉の形を大切に思われるのでしたら、いますぐお引きとりください」
たとえば、すべては無意味だと考えるとする。でもそう考えるなら、まったく無意味ではなくなる。なぜならこっちはすべての無意味さに気づいているわけで、無意味さに対するその自覚が、ほとんど意味のようなものを生み出すのだ。わかるかな?
■ロボット (岩波文庫)
- 作者: カレル・チャペック,Karel Capek,千野栄一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/03/14
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「ロボット」という言葉のもとになった作品だが、今では世界中で用いられるこの単語を考案したのは、刷毛をくわえた作者の兄(画家)だったそうな。
■長距離走者の孤独 (新潮文庫)
- 作者: アランシリトー,Alan Sillitoe,丸谷才一,河野一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1973/09/03
- メディア: 文庫
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後にも先にも空虚な日々を見出すばかりの孤独なアーネストおじさんは、心にささやかな灯をともすが、……。
『漁船の絵』の主人公は、「おれの生活には目的ってものがなかった、という気がしだした。それに、もう、信仰のほうへ向うのも、大酒飲みになるのも、手おくれになっている。なんのために生きてきたのか?そう思った。おれには判らない。いったい何が目的だったろう?」と振り返る。
■光あるうち光の中を歩め (新潮文庫)
- 作者: トルストイ,原久一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/05
- メディア: 文庫
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■日々の泡 (新潮文庫)
- 作者: ボリスヴィアン,曽根元吉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/03/02
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評論・エッセイ
「シーシュポスの神話」「太陽と鉄」はとても力強い文章。「園芸家の一年」は笑えるエッセイ。。
■シーシュポスの神話 (新潮文庫)
- 作者: カミュ,清水徹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/07/17
- メディア: 文庫
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不条理な人間のなしうることは、いっさいを汲みつくし、そして自己を汲みつくす、ただそれだけだ。不条理とは、かれのもっとも極限的な緊張、孤独な努力でかれがたえずささえつづけている緊張のことだ、なぜなら、このように日々に意識的でありつづけ、反抗をつらぬくことで、挑戦という自分の唯一の真実を証しているのだということを、かれは知っているのだから。
■太陽と鉄 (中公文庫)
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1987/11/10
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…だが、筋肉は鉄を離れたとき絶対の孤独に陥り、その隆々たる形態は、ただ鉄の歯車と噛み合うように作られた歯車の形にすぎぬと感じられた。涼風の一過、汗の蒸発、……それと共に消え去る筋肉の存在。……しかし、筋肉はこのときもっとも本質的な働らきをし、人々の信じているあいまいな相対的な存在感覚の世界を、その見えない逞しい歯列で噛み砕き、何ら対象の要らない、一つの透明無比な力の純粋感覚に変えるのである。もはやそこには筋肉すら存在せず、私は透明な光りのような、力の感覚の只中にいた。
いつ訪れるとも知れぬ「絶対」を待つ間の、いつ終るともしれぬ進行形の虚無こそ、言葉の真の画布なのである。それというのも、(中略)二度と染め直せぬ華美な色彩と意匠で虚無をいろどる言葉は、そのようにして、虚無を一瞬一瞬完全に消費し、その瞬間瞬間に定着されて、言葉は終り、残るからだ。言葉は言われたときが終りであり、書かれたときが終りである。その終りの集積によって、生の連続感の一刻一刻の断絶によって、言葉は何ほどかの力を獲得する。
■行動学入門 (文春文庫)
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1974/10/25
- メディア: 文庫
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「Ⅱ. おわりの美学」はとても平易な文章で、著者も認めるように半分ふざけている。トンカツを食べている美人がファウストの話を始めたことを「完全な羞恥心の欠如」と言って世をはかなんでいるところには笑ってしまった。それが学校の精神病院である所以らしい。一方で、彼の最期を予感させるところもちらほらと……
革命家はいつも「やむを得ず立ち上がる」ということを最大の自分たちの正義の根拠にしている。したがって抑圧のないところに抑圧をつくり出し、弾圧のないところに弾圧をつくり出しても、やむを得ず立ち上がるという状況をつくらねばならない。
■園芸家の一年 (平凡社ライブラリー)
- 作者: カレルチャペック,Karel 〓apek,飯島周
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2015/02/13
- メディア: 単行本
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理系っぽい本
■脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方
脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方
- 作者: ジョン J.レイティ,エリックヘイガーマン,John J. Ratey,Eric Hagerman,野中香方子
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/03
- メディア: 単行本
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■ジムに通う人の栄養学 (ブルーバックス)
- 作者: 岡村浩嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/03/20
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参考になる概算→例えば1日あたり720kcalを余分に摂取すると、10日で7200kcal余り、これは7200÷9=800gの脂肪に相当する(脂肪が1gあたり9kcalであることより)。体脂肪は80%が脂肪で残りは水etcなので、この800gの脂肪は1kgの体脂肪として蓄積されることになる。つまり10日で1kg太る。
その他メモ→・筋肉の合成のためには、たんぱく質は1食20g程度で良い。 ・精白米のたんぱく質はリジンが不足。 ・スポーツドリンクは薄めなくてよい。 ・体型指数よりは心肺能力の方が生存率に寄与。 ・酸素消費量と二酸化炭素排泄量の比(呼吸交換比RQ)から、エネルギー源として利用されている炭水化物と脂肪の比率が推定できる。 ・脂肪組織の比重は0.9、除脂肪組織は1.1。
- 作者: 柳宗民,三品隆司
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/03
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