roombaの日記

読書・非線形科学・プログラミング・アート・etc...

2015年7月に読んだ本まとめ

はじめに

毎月恒例の記事です。7月は12冊(kindle版含む)読んだみたいです。roomba.hatenablog.com


今月は少なめなので、「小説・音楽・その他」の3つに分類しました。各本について、タイトル・リンク・読書メーターに書いた感想(一部追加・修正あり・非ですます調)の順に記します。↓↓↓

小説

今月はだいぶ小説の読書量が減ってしまいました。

地下室の手記 (新潮文庫)

地下室の手記 (新潮文庫)

地下室の手記 (新潮文庫)

重い内容だが、「ニニが四などというのは、ぼくにいわせれば、破廉恥以外の何物でもない」といった滑稽な語りが可笑しくて、何度も笑える。……笑えるのだが、彼を笑うことは自分自身の一面を笑うことであるという事実に気付き、愕然とする。『山月記』を読むたびに弱みを突かれた思いをするが、本作品はそれ以上かもしれない。もっとも、後半における心理・行動はあまり理解できず、ドキリとしたのは主に前半だったが。


ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫)

気合いを入れて読み始めたが、騎士道本を読み過ぎて妄想にとらわれたドン・キホーテが滑稽で、笑いながら読めた。有名な風車への突撃にも勝るとも劣らないぶっ飛んだ行動が繰り返される。砂塵を巻き上げる「大軍」に突っ込んだり、きらきら光る「兜」を奪ったり……自らの正しさを信じて疑わない彼がちょっと羨ましかったりもする。滑稽さ以外では、献辞がそっくり剽窃である点や、序文自体を論じる序文、語り手が作者ではない設定などといった仕掛けも興味深い(訳注に詳しい)。名作たる所以はまだよく分かっていないが、普通に面白いので2巻へ。


ドン・キホーテ〈前篇2〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇2〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇2〉 (岩波文庫)

下半身をあらわにして宙返りをするなど、相変わらず頭のおかしいドン・キホーテだが、騎士道に触れない限りは理路整然として雄弁な人に見える。この巻ではカルデニオやドロテーアといった人物が新たに登場して、みんなでドン・キホーテをうまく騙している感じがなかなか笑えた。変装用のつけ髭が外れたのを見られても、呪文で取り付けたと言い張ったり。そんな騙しにわりとノリノリで加担する美しきドロテーアが、ドン・キホーテと同じく騎士道物語好きというのは興味深い。最後は物語の中の物語が語られ、その役割が気になるところ。3巻へ。


以下2冊は新潮文庫の夏限定カバーです。

■ボッコちゃん (新潮文庫)

ボッコちゃん (新潮文庫)

ボッコちゃん (新潮文庫)

夏限定カバーに惹かれて購入。一昨年から限定カバーが出るたびに星新一を読んでいて、僕の中で夏の風物詩のような扱いになっているけど、これは特に粒揃いな印象だった(気のせいかも)。結構ブラックなもの・寓話的なもの・SF的なものなど引き出しは多いが、どれも紛れもなく星新一だなあという感じがする。最後の最後でひっくり返してプツッと終わり、「やられた」と思わされることも多数。心地よい「やられた」感を味わえる一冊だった。


オズの魔法使い (新潮文庫)

オズの魔法使い (新潮文庫)

オズの魔法使い (新潮文庫)

  • 作者: ライマン・フランクボーム,にしざかひろみ,Lyman Frank Baum,河野万里子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/07/28
  • メディア: 文庫
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ドロシーと仲間達との不思議な冒険の物語。めでたしめでたしという感じでほっこりした。脳のないかかし・心をなくしたブリキのきこり・臆病なライオンという登場人物(人物?)の設定からして魅力的で、訳者あとがきの「孤独な魂たちが、出会い、絆を結び、夢をかなえる物語」という表現がしっくりくる。タイトルだけは知っていたが、限定カバーでなければ手に取ることは無かったと思うので、夏の100冊が良いきっかけになってくれた。英語版はテキストも音声も無料で手に入るようなので、そちらも読んでみる。

音楽

音楽を数学っぽく考える系の記事をいくつかあたためています。

■楽典―理論と実習

楽典―理論と実習

楽典―理論と実習

楽典の定番らしい。楽譜の細かなルールには興味がないので、音階や和音の章を中心に読んだ。以前読んだ『音律と音階の科学』と比較すると、丸暗記をさせようとしてきたり説明が無味乾燥だったりして物足りないが、別に理系向けの本では無いので物理・数学的な説明を求める方が間違いか……でも、調の相互関係や調の判定は参考になった。


↓ハーモノグラフはJavascriptで既に描いてみました。そのうち記事にします。

■ハーモノグラフ: 和音が織りなす美しい図像 (アルケミスト双書)

ハーモノグラフ: 和音が織りなす美しい図像 (アルケミスト双書)

ハーモノグラフ: 和音が織りなす美しい図像 (アルケミスト双書)

2つの振り子の振動を平面上の幾何学的図形にする「ハーモノグラフ」について書かれた本。2つの振動を2つの音として考えると、ハーモノグラフは和音を可視化する装置であるとみなすこともできる。前半で音律や音階の理論を解説し、後半ではオクターブ離れた和音や4度・5度の和音などが生み出すハーモノグラフを美しい図で紹介しており、音楽の本としても絵本としても楽しめる。ハーモノグラフをコンピュータで描くための数式が記されていないのは惜しいところだが、英語版Wikipidiaで補えばいいだろう。


■音楽と数学の交差

音楽と数学の交差

音楽と数学の交差

前半が特に興味深かった。二足歩行と二拍子の関連に言及したり、2音、3音、4音、5音からなるメロディーについて順番に実例を挙げつつ検討したり、中国のものを含む様々な音律を説明したり。後半では内的な宇宙が云々みたいなボンヤリした内容が多くなったが、示唆に富んだ文章もいくつかあった。「時間の再構成が音楽だ」というのは『魔の山』に書かれていたことに似ているなと思ったりした。ところで、「宇宙にはたくさんの波動が満ちて……」という文が現れたときにはゴクリと唾を飲んだが、なんとか踏みとどまってくれたので一安心。

その他

Kindle版は無料です。
ドストエフスキーバルザック

安吾ドストエフスキーバルザックを高く評価する理由を、彼の小説観に基づいて明快に論じている短いエッセイ。おすすめ。ドストエフスキーを読んで「なんか濃くてすごい」と感じた人なら「我が意を得たり」と思うに違いない。「彼等の芸術は現実よりも飛躍した芸術的真実の中にある」。現実といえば、「日本の文学ではレアリズムを甚だ狭義に解釈してゐるせゐか、「小説の真実」がひどくしみつたれてゐる。まるで人物の行為を出し吝しんでゐるやうである」という一節も痛快だった。バルザックは一つも読んだことがなかったが、今度読んでみたい。


■謎とき『罪と罰』 (新潮選書)

謎とき『罪と罰』 (新潮選書)

謎とき『罪と罰』 (新潮選書)

翻訳者でもある著者が、ドストエフスキー自身によるノートも参照しつつ『罪と罰』を分析する。『罪と罰』を読んだばかりなので、何気なく読み流していた細部にもこんな意図があったのか!と感心しきりだった。登場人物の名前の語源・ロシア語の微妙なニュアンス・キリスト教に関係する言い回しや数字・先行する文学作品や伝承など、よくここまで調べたなあという感じである。本書の内容を踏まえたうえで再読したくなるが、所々に『悪霊』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』『地下室の手記』などへの言及もあり、そちらも読みたくなるというジレンマ……


人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)

ニューラルネットのおばけ」程度に認識していたディープラーニングについて知りたくて購入。前半は従来のAIの解説で、個人的には知っていた内容だが、分かりやすくまとまっていたと思う。その後いよいよディープラーニングの説明!数式はほとんど出てこないが、すごさ(特徴量を自ら獲得)、しくみ(階層ごとの学習、自己符号化器)、やってること(主成分分析を非線形にし多段に)、応用可能性(言語理解、ロボットetc)などが分かった。ちゃんと勉強したくなる。最後の方にはシンギュラリティや産業・社会への影響に関する考察も。良書!

■村上さんのところ

村上さんのところ

村上さんのところ

少しずつ読むつもりだったのに一気に読んでしまった…。期間限定サイトはほぼ毎日チェックしていたので結構覚えていたけれど、それでも楽しめた。フジモトマサルさんの絵も面白いし、サイト終了後の質問・回答も載っている。そういえば、村上さんの本を読むようになったのはこの企画がきっかけだったなあと思い出した。エッセイばかり読んでいるけど。

おわりに

今月の個人的ランキングは、

といったところです。