roombaの日記

読書・非線形科学・プログラミング・アート・etc...

深層学習用PCを個人で自作するための部品選定ガイド(Amazon・実店舗)

概要

趣味でディープラーニングを行うために自作PCを組んでみました。
自作のメリットとしては、

  • 組み合わせの自由度が高く、ディープラーニング向けの構成を実現できる
  • 必要十分な構成が可能なため、無駄がなく安い
  • 部品の選定を通してハードウェアに関する知識が深まる
  • 組み立てが楽しい

などが挙げられます。
しかしながら、CPUやマザーボード、メモリ等の部品には様々な規格があり、部品の選定には正しい知識が必要です。それを共有するのがこの記事の目的です。


購入にあたっては、Amazonで調べたほか、秋葉原の複数の実店舗*1やそれらのオンラインストアを調査しました。
多くの場合Amazonが安いということが分かりましたが、一部は実店舗やオンラインストアの方が廉価でした。本記事ではすべての部品の購入先と購入価格も記します*2。目安にしてください。


結果として、最新のGPUであるGTX 1080 Ti(10万円ぐらい)を搭載したPCをほぼ20万円ちょうど(税込&ディスプレイ・キーボード代込)で作ることができました。


目次:


どのような順番で選ぶ? 大まかな流れ

  • 性能、価格ともにGPUの影響が大きいので、まずはGPUを選ぶ
  • GPUの足を引っ張らない範囲で、財布と相談しつつできるだけ良いCPUを選ぶ
  • SSDやHDDを選ぶ
  • CPUの世代によって対応するメモリが異なり、それらに応じてマザーボードを選ぶ
  • 合計の電力をもとに電源ユニットを選ぶ
  • マザーボードの規格やGPUの大きさを考慮した上で好きなケースを選ぶ
  • ディスプレイやキーボードはそれらとは独立に選べば良い

CPUの世代によって対応するメモリやマザーボードの規格に違いが生じることがあるため、合計の値段にも影響を及ぼします。
大まかに見積もってみて高すぎるようなら、互換性に注意しつつそれぞれの部品のグレードを下げていきます。

GPU

スペック

ディープラーニング用のPCで最も重要な部品がGPUです。NVIDIAの製品の中からどれかを選ぶことになるでしょう。

選定にあたっては、以下の記事(英語)が参考になります。
Which GPU(s) to Get for Deep Learning
この記事の結論の一部を簡単にまとめると、

  • コスパ良&値段高め:GTX 1080 Ti, GTX 1070
  • コスパ良&値段安め:GTX 1060
  • お金がほとんど出せないなら:GTX 1050Ti
  • Kaggleに参加したい:普通のcompetitionにはGTX 1060, ディープラーニングを使うcompetitionにはGTX 1080 Ti

という感じです。
GPUメモリ量が何GBか、メモリのバンド幅(bandwidth)が何GB/sか、値段がいくらか、といった点に特に注目すると良いようです。

OEMメーカーとFounders Edition

同じNVIDIAの(例えば)GTX 1080 Tiでも、ASUSmsi, GIGABYTEといった様々な会社から異なる値段で発売されており、冷却ファンの形状などがOEMメーカーごとに異なっています。ただし、Founders Editionと書いてあるものはNVIDIAがファンなども含め設計したもので、どの会社から買っても同じらしいです。

選んだもの

スペックに余裕をみておきたかったのでGTX 1080 Tiを選び、msiから出ているFounders Editionを購入しました。

MSI GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition グラフィックスボード VD6289

MSI GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition グラフィックスボード VD6289

CPU

スペック

ディープラーニングでCPUに求められるスペックについては以下の記事が参考になります。CPU以外の部品についてもいろいろ書いてあります。
A Full Hardware Guide to Deep Learning - Tim Dettmers
最近のデスクトップ用Core iシリーズならわりとどれでも良さそうな感じがします。しかしながらCPUは様々な処理に用いますから、良い物が買えるなら良いものにした方がよいでしょう。


Intelは毎年新たなマイクロアーキテクチャに基づく製品群を出しており、最新はKaby Lakeマイクロアーキテクチャです。第7世代と書いてあることもあります。
その1年前に出たのがSkylake、その前がBroadwell、etc...と遡ります。
インテル チック・タック - Wikipedia

【CPU】Intel Core i7, Core i5, Core i3の世代の一覧・見分け方のまとめ


CPUの名前の末尾にKがついているもの(例:Core i7-7700K)はオーバークロックが可能ですが、Intel純正のCPUクーラーが付属していません。もともとK無しのモデルよりも高価なうえにCPUクーラーの購入が必要となるので注意が必要です。
【Intel CPU】Core i7やCore i5のK付きとK無し、どちらを選べばいいのか


その他、コア数、スレッド数、クロック周波数、キャッシュのサイズ、メモリはDDR4-2133までの対応なのかDDR4-2400までOKなのか(メモリとの互換性)、ソケット形状やチップセットマザーボードとの互換性)などを考慮しましょう。

選んだもの

Core i7-6700(Kがつかないもの)を選択しました。最新のKaby Lake(Core i7-7700等)から1世代前のSkylakeマイクロアーキテクチャで、やや安めです。

メモリ

先述のようにCPUはSkylakeのCore i7-6700にするので、DDR4-2133のメモリから適当に選びました。
GPUのメモリ(GTX 1080 Tiでは11GB)よりも大きなものが良いそうなので16GBか32GBあたりが候補になり、余裕を持った32GBとすることに決めました。
16GBの2枚セットよりも8GBの2枚セットを2つ買うほうが安かったので後者にします(初期不良を手にする確率は高まる)。マザーボードには4枚まで挿せるようになっていました。

マザーボード

CPUがSkylakeなので、H170チップセットのものから適当に安いものを選びました。何か特殊なこと(オーバークロック等)をする場合はもう少し真面目に選びましょう。

選んだもの

電源ユニット

電力

全体の消費電力を元に選定します。

以下のWebサイトで部品を選ぶと、部品の互換性とともにトータルの消費電力が自動的に計算されるので便利です(日本製の部品は未対応の場合があるかも)。
Pick Parts, Build Your PC, Compare and Share - PCPartPicker

電源ユニットの最大W数の50%程度のときに電力変換効率が良いそうです。秋葉原の店舗でも、負荷率が50%から75%程度に収まるような選定例を掲示していました。

変換効率

電源ユニットの電力変換効率に関する規格として80 PLUSというものがあり、効率に応じてランク付けがなされています。高ランクのものほど値段は上がる一方で電気代は安くなります。高性能GPUを何年もフル稼働させる予定ならば高ランクの電源ユニットが長期的に見てお得ですし、たまにしか使わない場合は低ランクの安い電源ユニットで初期投資を抑えた方が良いでしょう。
80 PLUS - Wikipedia

選んだもの

今回は全体の消費電力が420W程度だったので600〜800W程度が候補になりますが、

  • 常に420Wでフル稼働するわけではないこと
  • 650Wが秋葉原ツクモでセールだったこと

などから650Wにしました。


SSD

SSDの方がOSの起動が速く幸せになれます。また、ディープラーニング用のデータセットを読み出すときなどにSSDの速さが生かされたりするかもしれません。
HDDでも問題はないですし、必要に応じてSSDにHDDを追加するという手もあります。

選んだもの

とりあえず275GBのSSDだけ。

ケース

基本的に好きなもので良いです。考慮すべき点としては、

  • 対応マザーボード規格:今回はATX(大きい)のマザーボードを選んだので、ATX対応のケースが必要
  • ポート数:USB3.0/2.0が何個ずつあるか
  • 大きさ:一般的なミドルタワーの他に、フルタワーやミニタワーなどの種類がある
  • GPUが収まるか

などがあります。

選んだもの

Amazonで「PCケース ATX ミドルタワー」と検索して一番上に出てきたものが良さげでした。


ディスプレイ

好きなもので良いです。個人的に考慮したこと:

  • 非光沢であること
  • 解像度(4Kが理想だけど、予算的に1,920×1,080ぐらい)
  • 大きすぎず、小さすぎないこと(小さい方のiMacぐらいが良さそうだと思った)
  • 見た目(厚さ、裏面、フレーム太さ)

キーボード・マウス

これも好きなものを。

選んだもの

少し高いのですが、宗教上の理由でThinkPadのものを選択しました。
キーボード中心にある赤ポチのおかげでマウスが不要となり、キーボードから手を離すことなく作業することが可能となります。ワイヤレスでも良かったかも。

やかん

今まではお湯を1500Wの電気ケトルで沸かしていたのですが、ブレーカーがしばしば落ちました。学習が進んだ頃にブレーカーが落ちるというのはあまり心温まる状況とは言えません。そうですね?
これからはやかんでお湯を沸かすことにします。この記事にやかんの項目を配置するのはふざけているようですが、わりと本気です。

選び方

  • 効率

底が広いデザインのほうが効率的に水を加熱できそうな気がしますが、ガス火の広がりぐあい(これに依存して火->やかん外部の熱伝達の様相が変わる)や内部における対流(これに依存してやかん内部->水の熱伝達の様相が変わる)、素材や厚み(これに依存してやかん上部への熱伝導が変わる)にも依存するため、ひと目で判断することは簡単ではありません。

  • 熱伝導率

やかんからお湯を注ぐ際、熱せられた注ぎ口にお湯が触れてジュワッとなることがありますが、あまり好ましくありません。ホーロー製とアルミ製でこの現象の起こりやすさが異なるように感じるのですが、熱伝導率が関係しているのでしょうか?

貝印 ケトル 2.5L  IH対応 シェフトロン DY05056

貝印 ケトル 2.5L IH対応 シェフトロン DY05056

費用まとめ

購入先・購入価格

GPUMSI GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition グラフィックスボード VD6289

購入先:パソコン(PC)通販のパソコン工房【公式】
購入価格:¥98,780 (税込価格¥98,980から、会員登録で取得した200ptを使用)

CPU:Intel CPU Core i7-6700 3.4GHz 8Mキャッシュ 4コア/8スレッド LGA1151 BX80662I76700 【BOX】

Amazonよりも安い店舗は見当たりませんでした。
購入先:Amazon(出品者はPCDEPOT)
購入価格:¥35, 640

メモリ:Team TED416GM2133C15DC01-AS 16GB(8GB×2) DDR4-2133対応 デスクトップ メモリモジュールを2セット

購入先:パソコン工房 秋葉原 BUY MORE店
購入価格:¥19,960(セール価格)

電源ユニット:玄人志向 STANDARDシリーズ 80 PLUS Silver 650W ATX電源 KRPW-AK650W/88+

購入先:ツクモ 12号店(秋葉原
購入価格:¥5,702(セール価格)

キーボード・マウス:レノボ・ジャパン ThinkPad トラックポイント・キーボード - 日本語 0B47208

購入先:Amazon
購入価格:¥5,410

合計

¥202,532 (20万2532円)でした。当初は22〜23万円を予想していたので嬉しさがあります。

組み換え案

  • キーボードにこだわらなければその時点で20万円を切ります。
  • 値段の半分を占めるGPUを安いモデルにすれば、全体の値段も大幅に下げることができます。
  • SSDよりもHDDの方が安いです。
  • フル稼働させる場合、50%程度の負荷率になる電力を持つ高効率な電源ユニットを選ぶと最終的に得をします。
  • CPUをCore i5にしても大きな問題は無いと思います。1万円ほど削減できます。
  • 必要なら光学ドライブを追加します。

市販の深層学習用PCと自作との比較

深層学習向けのPCとしては、例えば以下のDEEPstation DK-1000があります。
DEEPstation DK-1000お見積り

今回の自作PCの構成とこのDEEPstation DK-1000を比べると、

  • CPUはどちらもCore i7-6700
  • SSDは自作の方が+25GB
  • GPUDEEPstation DK-1000がGTX 1080なのに対して自作がGTX 1080 Ti
  • メモリはどちらも32GB(DEEPstation DK-1000では16GBも選択可)

という差がありながら、値段は

  • DEEPstation DK-1000:¥256,200
  • 今回の自作PC:¥202,532

5万円以上安くなっています。ただし、

  • DEEPstation DK-1000には1TBのHDDと光学ドライブが付いている
  • DEEPstation DK-1000はソフトウェアが同梱済み、もちろん組み立て済み、講習会のオプションもある

といった違いがあるので一概にどちらが良いとは言えません。HDDや光学ドライブはいつでも安価で追加できるし、組み立てや部品集めが楽しいので、個人的には自作の方にメリットを感じました。

参考になる本

ATXとかDDRとかSATAとかLGAとかチップセットとかCoreマイクロアーキテクチャとかPCI ExpressとかDIMMとかってなんだよ!!! という方には以下の本が参考になります。

〈最新〉図解でわかる PCアーキテクチャのすべて

〈最新〉図解でわかる PCアーキテクチャのすべて

ただし若干古いです。最新の情報や組み立て方などについては以下の雑誌が分かりやすいです。

*1:秋葉原巡りには以下のリンクが参考になりました: ASCII.jp:【2016GW企画】GWだアキバに行こう! アキバPCパーツショップ巡り (1/6)

*2:もちろん価格は時々刻々と変化するので、参考程度に!