音楽の構造を可視化したら美しかった - 耳に残る音楽とは?
耳に残りやすい音楽とは?
どこで聞いたのか覚えていないのですが、「音の高さが(飛び飛びではなく)階段状に上下する音楽は耳に残りやすい」という説を聞いたことがあります。
例えば「もろびとこぞりて」というポピュラーなクリスマス讃美歌の冒頭は「ドシラソファミレド」という極めて単純な進行ですが、誰もが聞き覚えのあるメロディなのではないでしょうか(下の動画における緑色の鍵盤)。
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この記事では、実際の音楽について「ある方法」に基づいてグラフ(2次元散布図)を作成することでその構造を可視化し、音の高さが階段状に変化しているのかを確かめてみます。また、そのような音楽が耳に残りやすい理由を検討します。特別な知識は不要です!
音の高さが階段状に変化する、ということ
では、音の高さが階段状に上下するとはどういうことでしょうか?
簡単のため和音なし・ハ長調で、指一本&白鍵だけで弾けるようなメロディについて考えてみます。すると、「音の高さが階段状に上下する」とは、「ある音(ドレミ…のどれか)の次の音は、1つ上か1つ下のいずれかの音である」ということができますね。
例えばある時に「レ」の音が鳴ったとして、次の音が「ド」か「ミ」になるということです(下図)。
これを2次元の散布図として表現することを考えましょう。
「ある時点の音」を横軸、「その次の音」を縦軸にして以下の図のようにプロットすることにします。すると、「レ→ド」「レ→ミ」という音の変化はそれぞれ下図の点に対応することになります。
音楽を「ドレミレド…」のように表記し、このような方法で点を描いていった散布図を作成します。もしもその音楽が「音の高さが階段状に上下する」という条件を満たしているのであれば、「ある音」と「次の音」の高さの違いは±1ですから、点は下図の赤線上に集中するはずです。本当にそうなるのでしょうか?
実際の音楽の構造は?
全章で導入した散布図作成法に基づき、「牧人 羊を」*1というクリスマスソングを散布図にしてみます。楽譜は以下のリンクを使用しました。
「牧人 羊を」の楽譜/おとタマ
この曲は「ミレドーレミファソー…」というメロディなので、「ミ→レ」「レ→ド」「ド→レ」「レ→ミ」「ミ→ファ」「ファ→ソ」…に対応する点を曲の終わりまで描いていくことになります。
その結果は下図のようになり、斜め45度のラインに対して対称になる*2という驚くほどシンプルな構造が現れました。
少し注釈を加えた図を下に示します。いくつか注目すべき点を説明します。
- 赤い線は、前章で説明した「音の高さが階段状に上下」していることを示す線で、この線の上に多くの点が乗っていることがわかります。
- 黄土色の矢印で指した点は、「ミ→ミ」「ラ→ラ」というメロディに対応する点で、曲中に同じ音を連続して弾く部分が存在することを表します。
- 緑色の矢印で指した点は、「ソ→ド」「ド→ソ」というメロディに対応する点で、この曲のメロディの中で唯一音が飛ぶ場所に対応します。なお、ドとソは不協和度が低く和音にもよく一緒に用いられる組み合わせなので、相性がよい音といって良いでしょう。
このように、「牧人 羊を」という曲はグラフで可視化するときれいな対称性を持ち、音の高さも概ね階段状に変化していることが分かりました。すげえ。
なぜ耳に残りやすいのか
ここまで説明したように、有名なクリスマスソングをグラフにするときれいな構造が表れました。この構造が音楽の「良さ」に何らかの形で寄与していると考えられます。
でも、「音の高さが階段状に変化」するような構造を持つと、どうして耳に残りやすいメロディーとなるのでしょうか?
この分野に詳しいわけではないのですが、個人的な意見としては「次に来る音の予測しやすさ」がカギなのではないかと考えています。階段状に音の高さが変化する場合は次の音が1つ上か1つ下に限定されて「ああ、やっぱりその音ね」という安心感が得られる一方、ランダムに鍵盤を叩いても秩序ある音楽とは思えないですよね? このような「予測のしやすさ」は、あるいは「情報量の少なさ」といってもいいかもしれません。
余談ですが、「階段状の変化」と似たような例として音楽の世界にはクリシェという言葉があるらしく、半音差か全音差の緩やかな音程差で移動していくフレーズのことを指すそうです。このようなフレーズの効果も上記の「予測しやすさ」によるのかもしれませんね。
2.17 クリシェ | SONIQA
おわりに
- 今回は1曲だけに限定しましたが、いろいろ調べて比較してみると面白そうです。人気の曲と不人気の曲の違いとか。
- 音楽をプログラムで自動生成してみたいと思っているのですが、その参考にもなりそうです。
- クリスマスソングを選んだのは、シンプルかつ覚えやすいメロディーだからです。
- この記事では和音を無視したりと単純化して考えていることにご留意下さい。