roombaの日記

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『デイヴィッド・コパフィールド』『大栗先生の超弦理論入門』ほか - 2016年1月に読んだ本まとめ

はじめに

2016年1月に読んだ22冊です。

新たな試みとして、自動でこの記事の骨格を生成してみました。詳しくは今度書きますが、読書メーターのデータをもとにタイトル・感想・amazonへのリンク(今までは一つ一つ検索していた)などを並べるプログラムを用います。生成後にはちゃんと手動で感想を加筆・修正したり、ジャンルごとに分類したり、引用文を貼り付けたり、ランキングを考えたりしています。

今月は海外文学、理系っぽい本、古典・その他に分類しました。海外文学多めです。

以下では、各本について、タイトル・リンク・読書メーターに書いた感想(一部追加・修正あり・非ですます調)の順に記します。気に入った文の引用も。↓↓↓

1月に読んだ本(タイトル一覧)

伊勢物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)
老子荘子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)
■美の幾何学―天のたくらみ、人のたくみ (ハヤカワ文庫 NF 370 〈数理を愉しむ〉シリーズ)
■デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)
■デイヴィッド・コパフィールド〈2〉 (岩波文庫)
■植物知識 (講談社学術文庫)
■レトリックの記号論 (講談社学術文庫)
■デイヴィッド・コパフィールド〈3〉 (岩波文庫)
■デイヴィッド・コパフィールド〈4〉 (岩波文庫)
■デイヴィッド・コパフィールド〈5〉 (岩波文庫)
■若きウェルテルの悩み (岩波文庫)
■未成年 上巻 (新潮文庫 ト 1-20)
■大栗先生超弦理論入門 (ブルーバックス)
■三角形 - ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議3
■生命のサンドウィッチ理論
■物理がわかる実例計算101選 (ブルーバックス)
■未成年 下巻 (新潮文庫 ト 1-21)
嵐が丘(上) (岩波文庫)
■Complexity: A Guided Tour
嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)
■賭博者 (新潮文庫)
■私の幸福論 (ちくま文庫)

以下詳細↓

海外文学

長めの名作を中心に。
■デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールドの誕生から少年時代まで。肉親を早くに失い、義理の父などから理不尽な目に遭わされ、学校にねじ込まれたかと思ったら自活をする羽目に陥るなど、少年の頃からいろいろ大変なデイヴィッドくん。それでも物語が暗くならないのは、幸せな幼少期の思い出を胸に抱きながら彼が常にひたむきに生きていることと、彼の善良な心根を理解して心から可愛がってくれる人々が存在することによるのだろう。いや〜な奴もいるけど、全体として人間のあたたかみを感じる。翻訳も結構新しいみたいで読みやすかった。


■デイヴィッド・コパフィールド〈2〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈2〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈2〉 (岩波文庫)

災難続きだった幼少期を終え、ひとまず落ち着いた環境で成長してゆくコパフィールドくん。勉強もするし、恋もするし、人柄が良いので多くの人々と仲良くなってゆく。働き先を決める前の旅では、旧知の人々とのあたたかい再開も。1巻ではあまり良い人に思えなかったある人物も実は良い人だったことが判明するし、ある一瞬の記憶からそれを予感して彼女のもとに駆け込んだコパフィールドもすごい。伯母さんがやたらとロバを憎んでいるところとか、人物の細部に面白みがあるのも楽しかった。伏線もあるので先が気になる。


■デイヴィッド・コパフィールド〈3〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈3〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈3〉 (岩波文庫)

順調に働き始めたコパフィールドには、美しいドーラとの運命的な(と思しき)出会いが待っていた。恋に浮かれて楽しいことばかり…と思いきや、あらゆる物事がうまくいく訳もなく、複数の大きな喪失と身内の苦難、それに伴う憂鬱が立ちはだかる。そんな中でも前向きに歩き続けるあたりはさすがだ。旧知の友人や憎きあの人との思いがけない再会も随所にあり、長〜い作品ならではの面白さみたいなものが感じられる。未来への希望と不安をコパフィールドくんと一緒に抱きつつ、すみやかに4巻へ。


■デイヴィッド・コパフィールド〈4〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈4〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈4〉 (岩波文庫)

悪役ヒープの悪役感が高まり、大切なひとを捜してさまようミスター・ペゴティーの方にも新たな進展が生まれ、主人公コパフィールドは新たな生活を営むようになる。もう4巻目なのでどこからがこの巻の内容だったか忘れつつあるが、とにかくこれら複数の話題を中心に重層的に話が進んでゆく。気が強い伯母さん、善良なディック、姉のようなアグネス、とことん気持ち悪いヒープなど、登場人物にだいぶ愛着が湧いてきた。ドーラはちょっと面倒な妻だなぁ…。エンタメ的に面白くてどんどん読み進めてしまう。


■デイヴィッド・コパフィールド〈5〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈5〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈5〉 (岩波文庫)

喜劇があり、悲劇がある。コパフィールドを中心に個性的な人々が繰り広げる、愛すべき物語だ。人々に愛着が湧いてしまって読み終えるのが惜しいぐらい。この最終巻がやはり圧倒的に面白く、前巻までに散りばめられていた問題がことごとく解決をみてゆくので目が離せなかった。長き旅路が始まり、痛快な「爆発」が起こり、恐ろしい嵐が訪れ、あの2人がついに…。人物の個性や口癖が強調され、結末は上手くまとまり過ぎかもしれないが、フィクションならそれぐらいの方が好きだ。人間のあたたかみが溢れるディケンズらしい名作、読んで良かった。


■若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

ことばの力強さや溢れ出る詩情には、さすがゲーテという印象を受けた。ゲーテの作品はとても好きだ。でも、個人的には他の作品ほど心に響かなかったような…。読んだ時期の問題もあるのかな。「もし生涯に『ウェルテル』が自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ」とゲーテは言ったらしいので、まだまだ不幸なのかもしれない。ウェルテルに影響されて○○する人もいたらしいが、むしろ共感しきれないことによって、どうあっても生きていなければねと思った。ゲーテだって最後までウェルテルと成りきらずに済んだのだ。

「われわれは何事をも自分と比較し、自分を何事とも比較するようにできているのだから、幸とか不幸とかは、けっきょくはわれわれが自分を対比する対象次第のわけだ。だから、孤独ほど危険なものはない。われわれの想像力は、もともと高きを求めるものであるのに、さらに文学の空想的な幻影に煽られて、しらずしらずに存在の一系列をつくりあげてしまう。そして、自分はその最下位にいるが、自分以外のものはもっとすぐれている、他人は誰でもずっと完全だ、と思い込む」


■未成年 上巻 (新潮文庫 ト 1-20)

未成年 上巻 (新潮文庫 ト 1-20)

未成年 上巻 (新潮文庫 ト 1-20)

ドストエフスキーの5大長編で最もマイナーな作品。最初はちょっと混乱&退屈したが、主人公アルカージイが自らの『理想』を語るあたりから次第に面白くなってきた。彼は孤独を求めており、そのためにもロスチャイルドのような富豪になるという理想を抱いている。彼は威力を欲するが、それを実際に行使することよりも、いつでも行使し得るという可能性で「一人だけの力の意識」を充たすことに価値を見出しているという点が特徴的。私生児の自分を最近まで放置していた実の父・ヴェルシーロフに対する感情が必ずしも負の面だけでなく、なかなか複雑。

「美しい思想を論破するだけではだめだ、同程度に力強い美しいものを代りにあたえねばならぬ」


「人間というものは隣人を愛するということが生理的にできないように創られているんだよ。ここにはそもそものはじめから言葉になにかのまちがいがあるのだ、だから『人間に対する愛』という言葉は、きみ自身が自分の心の中につくり上げた人類だけに対する愛(言葉をかえて言えば、自分自身をつくり上げたということになるから、自分自身に対する愛ということになるのだが)、したがって決して実際に存在することのない人類に対する愛と解釈すべきだよ」


■未成年 下巻 (新潮文庫 ト 1-21)

未成年 下巻 (新潮文庫 ト 1-21)

未成年 下巻 (新潮文庫 ト 1-21)

予想より面白かった。『理想』を抱いていたアルカージイは錯綜した現実に直面するものの、マカール老人(カラ兄のゾシマ的)との接触により『善美』を求めるようになる。ところが、善美への彼の激しい渇望には蜘蛛のような別種の渇望が同居する! 至高の理想と醜悪な卑劣さの両立にカラマーゾフを連想。ところで、最後にセミョーノヴィチが指摘したように、事件に重大な影響力を持つ『文書』を執拗に隠し持っていたことは特徴的だ。ここには、富豪としての威力を行使し得る「可能性」を理想において重視した彼の価値観に通じるものがあると思う。

「高度の知識人というものは、高い思想を追求しているうちに、ややもすると現実からすっかり遊離してしまって、滑稽で、気まぐれで、冷淡になってしまうことがある。しかも遠慮なく言うと-ばかになってしまう、それも実際生活においてばかりでなく、しまいには自分の理論においてさえばかになってしまうんだよ。こういうわけだから、実際面にふれて、一人でも現実の人間を幸福にしてやらねばならぬとする義務は、実際にはすべてのあやまちを矯正し、その恩恵をあたえる当人の頭をも新鮮にすることになるのだよ。」


「この秩序破壊の願望はーそれももっとも多くの場合ー秩序と『善美』への渇望から生れるらしいのです。あるいは、こうしたあまりにも早すぎる狂気の爆発の中に、ほかならぬこの秩序への渇望とこの真理の探求が秘められているのではないでしょうか、としたら、現代のある若者たちが、どうしてそんなものを信じることができたのか理解に苦しむような、愚劣きわまる滑稽なものの中に、この真理とこの秩序を見出すからといって、いったい誰を責めることができるでしょう!」


嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘(上) (岩波文庫)

北風が吹きすさび、モミの木が激しく揺れる嵐が丘。世間から隔絶したこの荒野に暮らすのは今では数人だが、語り手(聴き手?)のロックウッドが見つけた寝台の蔵書やディーンさんの昔話から、嵐が丘の愛憎の歴史が徐々に明らかになってくる。中心人物のヒースクリフやキャサリンはとにかく個性が強く、感情のあまりの激しさにクラクラした。「現在」の時点ですでに亡くなっている人もまだ存命の人も物語に登場するので、ロックウッドがみた悪夢のような幽霊のようなものとあわせて悲劇性を予感しつつも、気になって読むのが止まらなくなる。


嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)

嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)

嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)

家政婦ディーンさんの回想が続く。どこまでも陰湿で救いのないヒースクリフの陰謀、嵐が丘の過去が明らかになる。ところが、たまたま語り手ロックウッドがスラッシュクロスを訪れて知ったその後の展開は少し意外だ。ヒースクリフがディーンに鬼気迫る胸の内を明かし、残された者たちには嵐の後の穏やかな光を感じる終わり方。まあ、大地の下に休む人々の眠りは穏やかではなさそうだが…。「あれから雨の晩には窓から人影が2つ覗いている」と聞いても、さもありなんと思わされるような、ヒースクリフとキャサリンとのおそるべき情念。圧倒された。

「窓」とその近くのモミの木が印象に残った。語り手ロックウッドが夜中にキャサリンの幽霊をみた窓、その窓にぶつかって物音を立てるモミの枝。絶食したキャサリンが吸いたいと願った、モミの木をゆする荒野の風。キャサリン(娘)がモミの木を伝って脱出した格子窓。倒れたヒースクリフの体に雨を注ぎ込む窓。……

「この世はすべて、かつてキャサリンが生きていたことと、おれがあいつを失ったことを記したメモの、膨大な集積だ!」


■賭博者 (新潮文庫)

賭博者 (新潮文庫)

賭博者 (新潮文庫)

「はい! やって来ましたよ! 電報の代りにね!」お祖母さんの登場で空気が一変する。「なんて間抜けぞろいなんだろう!」。キレッキレのお祖母さん、最高だ。そのお祖母さんもいい歳して賭博にのめり込むのだが、主人公アレクセイの賭博への依存度もどんどん高まり、勝った時の痺れるような快感とその後の破局に息を呑んだ。短い作品だがさすがにドストエフスキーと感じる激しさがあり、特に女性が恐ろしい。「目にもの見せてやる! たぶん!」「すぐにでもやめますよ、ただ……」といった純度100%のダメ人間語録も見ものである。



理系っぽい本

はじめて洋書に挑戦。
■美の幾何学―天のたくらみ、人のたくみ (ハヤカワ文庫 NF 370 〈数理を愉しむ〉シリーズ)

美の幾何学―天のたくらみ、人のたくみ (ハヤカワ文庫 NF 370 〈数理を愉しむ〉シリーズ)

美の幾何学―天のたくらみ、人のたくみ (ハヤカワ文庫 NF 370 〈数理を愉しむ〉シリーズ)

おもしろい。理論物理学者の伏見氏・芸術家の安野氏・工学部出身の中村氏の三者が美と幾何学について語り尽す。扱う内容は多岐に渡り、生き物のかたち・折り紙・黄金分割・日本の「紋」や襖の文様・寄木細工・敷石のタイル張り・結晶学・エッシャー・遠近法・4次元の世界・マグリットなどなど盛りだくさん。多くの示唆が得られる本だった。ちょっと難しい数学の話もちゃんと載っているが、対談とは分離されているので分からなくても大丈夫。漱石の表紙絵(新潮文庫)を描いた安野光雅氏がこういう話に詳しいとは知らなかった!


■植物知識 (講談社学術文庫)

植物知識 (講談社学術文庫)

植物知識 (講談社学術文庫)

日本の植物学に大きな貢献をした牧野富太郎が、いくつかの花と果実について、一般向けに解説したもの。各植物の形態的・生態的な特徴を紹介するのみならず、和歌に出てくる植物名に言及したり、名前の成り立ちを遡ることもしばしば。植物を愛し、その研究に生涯を捧げた牧野博士の情熱が伝わってくる、とても人間味に溢れた文章だった(特にあとがき)。


■大栗先生超弦理論入門 (ブルーバックス)

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

超弦理論超ひも理論)に縦書きで入門。ときめいた。SFよりぶっ飛んで聞こえる以下の話題が門外漢にもなんとなく理解でき、世界を見る目がちょっぴり変わる。すべての素粒子が弦の振動状態から現れると考える弦理論、フェルミオンも説明できる超弦理論、空間が9次元に決まる理由、余剰次元のコンパクト化、カラビ-ヤウ空間のオイラー数がクォークの世代数を決めること、10次元の超重力理論と膜、結合定数の大きさだけで増減する次元、Dブレーンに張り付いた弦がブラックホールの分子?、重力のホログラフィー、空間は幻想か? etc...

特に第4章が気持ち良い。特殊相対性理論と矛盾しないためには光子の質量がゼロでなければならないという条件と、1+2+3+... = -1/12 というオイラーの驚くべき公式とがあわさって、超弦理論の空間が9次元と定まってしまう…!


■三角形 - ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議3

三角形 ? ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議3

三角形 ? ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議3

最も基本的な形状のひとつである三角形に関してブルーノ・ムナーリがまとめた図鑑的なもの。ほとんどが写真で文章は少なく、数学的な難しい話もない。プランクトン、建築、プロダクトデザイン、オブジェ、記号、結晶といった様々な領域にみられる三角形が掲載されていて、かたちを愛する自分にはとても面白かった。何かのヒントになりそうだ。『円形』と『正方形』も引き続き読んでみたい。


■生命のサンドウィッチ理論

生命のサンドウィッチ理論

生命のサンドウィッチ理論

図書館。パラパラとめくって「絵本かな?」と思いきや、1行目から「世の中は非線形なシステムでできあがっている」と来て意表を突かれた。最後までそういうノリなので対象とする読者層は謎。ハードウェアとソフトウェアというパンで挟まれたサンドウィッチ的生命現象を考えるときに、それらに挟まれた具に相当するのが「自分で動くパターン」であり、この具(ライフゲームではグライダー)がパンを切り結びするダイナミックな現象が大事だよね、みたいなことが書いてある。『動きが生命をつくる』という著書(未読)のある池上氏らしい内容。


■物理がわかる実例計算101選 (ブルーバックス)

物理がわかる実例計算101選 (ブルーバックス)

物理がわかる実例計算101選 (ブルーバックス)

封筒の裏に書ける程度のちょっとした物理計算が101個。分野にもよるが、大半を理解したければ高校〜大学教養程度の物理が必須。桁が合っていればOKぐらいの単純な計算なのだけれど、「その式からその結論を導くか〜」と頭の良さに感心した。人間というヒーターのワット数・氷水の飲用で消費されるカロリーを計算したり、岩のかたさから山の高さの限界を見積もったり、コウモリとイルカのレーダー周波数の違いが妥当か検証したり、光学顕微鏡の最大倍率から可視光の波長を確かめたり、摩擦が表面積によらない原子スケールの理由を考えたり。


■Complexity: A Guided Tour

Complexity: A Guided Tour

Complexity: A Guided Tour

『ガイドツアー複雑系の世界』の原書。歴史を踏まえて解説してくれるガイドさんなので、まずは情報とエントロピーチューリングマシン・進化論・遺伝学あたりを軽くおさらい。その後はコンピュータと生命がしばしば対象となり、コンピュータ上での生命と進化(人工生命・遺伝的アルゴリズム)や、逆に生命におけるある種のコンピュテーション(遺伝子の制御ネットワーク・免疫系)の存在が明らかになる。
以下、特に興味深かった内容。
囚人のジレンマを繰り返す協力ゲームにおいて、最適戦略はわりと寛容。空間的な広がりのある拡張版もある。
②局所的情報に基づくセル・オートマトンによって、マクロな状態をボトムアップ的に計算できる。そのためのルールを遺伝的アルゴリズムによって設計する。
③様々な生物において標準代謝量が体重の3/4乗に比例する(単純に表面積云々を考えると2/3乗なのに)現象を説明するのに、循環器系等のエネルギー的・時間的効率が最適化されていると仮定したときのフラクタル的構造が効いてくる。
④カウフマンのRandom Boolean Networkにおけるアトラクタの解釈。

古典・その他

たまには古文・漢文も
伊勢物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

伊勢物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

伊勢物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

現代語訳+原文+解説。久しぶりの古文だったが平易でひとつひとつが短いので結構すんなり読めた。ほとんどの章段に恋に関係した和歌があり、簡潔で説明し過ぎない語り口とともに味わい深い。物語の内容では、駆け落ちの途中で女が鬼に食われ「露とこたへて消えなましものを」と歌う〈六段〉、去る男を必死に追う女が清水のほとりで力尽き、流れ出る血で歌を書く〈二四段〉の二つが特に心を打つ。和歌については「名にし負はばいざこと問はむ都鳥〜」「からころも着つつなれにしつましあれば〜」「世の中にたえて桜のなかりせば〜」あたりが印象的。


老子荘子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)

老子・荘子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)

老子・荘子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)

荘子が読みたくて。たとえ話を多用しているために話自体が結構おもしろく、漢文好きだった頃を思い出した。九万里の高みを飛翔して地上を見下ろす大鵬が冒頭に登場したのちに、青一色の地上を眺める鵬に象徴されるような、万物の等しい価値を見出す思想を説いてゆく。何かを絶対とする価値観を否定し、生と死、現実と夢、是と非、用と無用などに関する相対的なものの見方を寓言によって示す。孔子らの儒家は政治・社会寄りなのに対し、老子荘子の道家はもっと根源的な世界の成り立ちを考えるものだそうだ。老子はあまりしっくりこなかった。


■レトリックの記号論 (講談社学術文庫)

レトリックの記号論 (講談社学術文庫)

レトリックの記号論 (講談社学術文庫)

佐藤氏のいうレトリックとは、美辞麗句を以て文章を装飾するだけのものではなく、無限に変化し得る事象を有限のことばで表現するための創造的な技法である(うろ覚え)。その辺りは前著『レトリック感覚』に詳しいが、本書はこのようなレトリック感覚に基づいて雑誌等に掲載された文章をまとめたものだ。先述のように無限の事象を有限のことばで表現するのであるから、レトリックはしばしば言語学を逸脱した言語現象を扱うことになり、言語以外の記号一般を扱う記号論へとレトリックの領野を広げてゆく。いくつか気付くところがあったので満足。


■私の幸福論 (ちくま文庫)

私の幸福論 (ちくま文庫)

私の幸福論 (ちくま文庫)

福田恆存は綺麗事で読者を甘やかさないし、自由や平等を声高に叫ぶこともしない。といって決して皮肉屋や厭世家ではなく、われわれの生きかたについて厳しくも真摯に向き合い、そこにはむしろ本当の優しさを感じる。いたずらに自由ばかりを求めるのではなく、限界を背負い、宿命の前に屈服することも覚悟すること。「快楽」を目的とし、それが手に入らないといって不幸をかこつのではなく、たとえ敗北しながらでも諦めずに戦うこと。程度の差こそあれ、悲劇の主人公と似たような生きかただ。もともと女性誌の連載らしいが女性に限定されない内容。

「ひがみは、現実に敗北した不平家を生むと同時に、頑なつめたい勝利者をも生むのです」


「キリーロフは絶対の自由という思想に自殺させられたのです。やはり受身は受身です」


「はじめから宿命を負って生れて来たのであり、最後には宿命の前に屈服するのだと覚悟して、はじめて、私たちはその限界内で、自由を享受し、のびのびと生きることができるのです」


「究極において、人は孤独です。愛を口にし、ヒューマニズムを唱えても、誰かが自分に最後までつきあってくれるなどと思ってはなりません。じつは、そういう孤独を見きわめた人だけが、愛したり愛されたりする資格を身につけえたのだといえましょう」

おわりに

今月の個人的ランキングは、

といった感じです。充実していたので多めにランクインさせてしまいました。


先月分はこちら↓
roomba.hatenablog.com