roombaの日記

読書・非線形科学・プログラミング・アート・etc...

『カラマーゾフの兄弟』ほか - 2015年11月に読んだ本まとめ

はじめに

11月に読んだ20冊を記しておきます。今月は何といっても『カラマーゾフの兄弟』! 絶対に一度は読むべきだと思います。


以下では今月読んだ本を「小説(海外)」「小説(国内)」「理系っぽい本」「教養・その他」の4つに分類しました。

各本について、タイトル・リンク・読書メーターに書いた感想(一部追加・修正あり・非ですます調)の順に記します。気に入った文の引用も。↓↓↓

11月に読んだ本(タイトル一覧)

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)
カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)
カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)
カフカ寓話集 (岩波文庫)
■R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)
■倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)
桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)
■道草 (新潮文庫)
■形態学 形づくりにみる動物進化のシナリオ (サイエンス・パレット)
■エッジエフェクト(界面作用) 福岡伸一対談集
■物理数学の直観的方法―理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬〈普及版〉 (ブルーバックス)
エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)
大人の科学マガジン Vol.30 (テオ・ヤンセンのミニビースト) (Gakken Mook)
■新 物理の散歩道〈第1集〉 (ちくま学芸文庫)
■芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム (ブルーバックス)
■謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)
ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集
文学のふるさと
■禁酒宣伝百人一首
■楽しい古事記 (角川文庫)


以下詳細↓

小説(海外)

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)

すごかった…。父フョードルは強欲で騒々しい人物だが、どこかに道化のかなしみを感じるというか、酒と女で精神を保っているようなところがある。直情型の長男ドミートリイは父と揉めていて、事件の予感を漂わせている。インテリな次男イワンは、神は認めるが神の創った世界は認めない・隣人を愛せないと語る。「大審問官」に至る彼の発言ほど凄味のある文章は見たことがない。三男アレクセイは『白痴』のムイシュキン的な良い人…と思いきや、神の不信を仄めかしたり、カラマーゾフの血の自覚を語ったりしており、侮れない。とにかく続きが楽しみ。
ドミートリイが「こんな男がなぜ生きているんだ!」と言ったり、フョードルが「ウグイで神さまが買えると思っているんだ!」と絶叫したりする修道院での騒ぎは笑えた。 あと、すごくどうでもいいんだけど、呼ばれる度に「さっぱりわからん」と結論を出すヘルツェンシトゥーベ医師がじわじわ来る。すっかりファンになってしまった。

「かりに俺が人生を信じないで、愛する女性にも幻滅し、世の中の秩序に幻滅し、それどころか、すべては無秩序な呪わしい、おそらくは悪魔的な混沌なのだと確信して、たとえ人間的な幻滅のあらゆる恐ろしさに打ちのめされたとしても、それでもやはり生きていたいし、いったんこの大盃に口をつけた以上、すっかり飲み干すまでは口を離すものか!」


「この世のだれもが、何よりもまず人生を愛すべきだと、僕は思いますよ」
「人生の意味より、人生そのものを愛せ、というわけか?」
「絶対そうですよ。兄さんの言うとおり、論理より先に愛することです。絶対に論理より先でなけりゃ。そうしてこそはじめて、僕は意味も理解できるでしょうね。…」


「俺の考えだと、まさに身近な者こそ愛することは不可能なので、愛しうるのは遠い者だけだ」


「俺だって赦したい、抱擁したい、ただ俺は人々がこれ以上苦しむのはまっぴらだよ。そして、もし子供たちの苦しみが、真理を買うのに必要な苦痛の総額の足し前にされたのだとしたら、俺はあらかじめ断っておくけど、どんな真理だってそんなべらぼうな値段はしないよ。…」


「統一的な跪拝のために人間は剣で互いに滅ぼし合ってきたのだ。彼らは神を創りだし、互いによびかけた。《お前たちの神を棄てて、われわれの神を拝みにこい。さもないと、お前たちにも、お前たちの神にも、死を与えるぞ!》たぶん、世界の終りまでこんな有様だろうし、この世界から神が消え去るときでさえ、同じことだろう。どうせ人間どもは偶像の前にひれ伏すのだからな。」


カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)

ついに事件が起こる。上巻では次男三男の印象が(個人的には)強く、長男ドミートリイは割と単純な男かと思っていたのだが、決してそんなことはなかった。老僕の件よりも泥棒の自覚に苦しんだり、卑劣な行為をしながら高潔さを渇望すると語ったり、彼の複雑な内面が徐々に明らかになってくる。グルーシェニカも意外に良い人…? スメルジャコフ(明らかにやばい奴)の意味深な言動に接した次男イワンと、腐臭騒ぎの後に重大な変化があったらしい三男アリョーシャとは、中巻中盤以降登場していない。彼らが下巻でどう関わってくるのか楽しみだ。

「生きていたい、生きていたい、よび招くその新しい光に向って、何らかの道をどこまでも歩きつづけて行きたい、それもなるべく早く、一刻も早く、今すぐに、たった今からだ!」


カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)

カラマーゾフ万歳! カラマーゾフは、高邁な理想と低劣な堕落の二つの深淵を同時に見つめることができる。放埓な自身の粗暴さや残酷さとは対照的に、やさしい、美しい、正しいものを渇望するミーチャ。神の創った世界を認められず苦悩するイワン。修道院から俗界へ出て皆から心を開かれる善人アリョーシャ。彼らに共通するのは、カラマーゾフ的な、生への熱烈な渇望だ。たとえ人生が苦悩の連続でも、この世界が到底容認できない不合理なものであっても、とにかくわれわれは現実に生きている。矛盾も混沌も内包する人生への全き肯定に心を打たれた。

「こっけいがどうだと言うんですか? 人間なんて、いったい何度こっけいになったり、こっけいに見えたりするか、わからないんですよ。それなのに、この節では才能をそなえたほとんどすべての人が、こっけいな存在になることをひどく恐れて、そのために不幸でいるんです。…」


「アリョーシャ、俺が今どんなに生きたいと望んでいるか、お前には信じられんだろう。生存し、認識したいというどんなに熱烈な欲求が、ほかならぬ漆喰の剥げたこの壁の中で、俺の心に生れたことだろう! (中略)数知れぬ苦痛を受けても、俺は存在する。拷問にのたうちまわっても、俺は存在する!柱にくくられてさらしものになっても、俺は存在するし、太陽を見ているんだ。太陽が見えなくたって、太陽の存在することは知っている。太陽の存在を知っているってことは、それだけでもう全生命なんだよ」


「そりゃ、もちろん、人間たちは苦しんでいるよ、しかし……その代り、とにかく生きているじゃないか、幻想の中でじゃなく、現実に生きているんだ。なぜなら、苦悩こそ人生にほかならないからね。苦悩がなかったら、たとえどんな喜びがあろうと、すべては一つの無限なお祈りと化してしまうことだろう。それは清らかではあるけど、いささか退屈だよ」


「ああ、子供たち、ああ、愛すべき親友たち、人生を恐れてはいけません! 何かしら正しい良いことをすれば、人生は実にすばらしいのです!」


カフカ寓話集 (岩波文庫)

カフカ寓話集 (岩波文庫)

カフカ寓話集 (岩波文庫)

寓話的な短篇を30作程度収録。なかには数行しかない短いものもある。どう読めばいいのか良く分からないままに終わってしまったものも結構あったけれど、おもしろいものもいくつかあった。「ロビンソン・クルーソーが島の中の最も見晴らしのきく一点にとどまり続けていたら、彼はいち早くくたばっていただろう」というようなことを1ページで書いた『ロビンソン・クルーソー』や、求められなくなっても断食を続け、「自分に合った食べものを見つけることができなかった」と述べる『断食芸人』など。ちゃんと読めていない自覚があるのでいつかまた。


小説(国内)

■R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)

R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)

R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)

安部公房の長篇はいくつか読んだけれど、短篇は初めて。この本に収められている作品はどれもSF的な内容だった。人間がロボットになったり、動物的に改造されたり、食人が一般的になっていたり、緑色に進化した人間が出てきたりと、人間のあり方が揺さぶられるような状況が描かれていることが多い。寓話的な感じのする作品もある。こんな様々な設定の話をよくもまあ思い付くものだと思った。解説はちょっと苦手。

「君は安部公房という小説家を知ってるかい?」
「名前は聞いたことがあるな」
「へんな、六法全書をつかって金もうけをする方法みたいな話ばかり書くやつだよ」


■倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

漱石初期の短篇集。作品によって雰囲気がかなり違っていて、『倫敦塔』『カーライル博物館』は紀行文的、『琴のそら音』『趣味の遺伝』は現代小説的である。『趣味の遺伝』において、物寂びた寂光院に佇む美人を見た感慨をきっかけに、マクベスシェイクスピア)の門番にみられる「対照」の効果を論じているところが気に入った。 かための文体で西洋の歴史的出来事(伝説?)を描く『幻影の盾』『薤露行』は、ちょっと頭に入ってこなかった…

「カーライルの顔は決して四角ではなかった。彼は寧ろ懸崖の中途が陥落して草原の上に伏しかかった様な容貌であった。細君は上出来の辣韮の様に見受けらるる。今余の案内をして居る婆さんはあんぱんの如く丸るい。余が婆さんの顔を見て成程丸いなと思うとき…(『カーライル博物館』)」


桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

半分弱は別の本や青空文庫で読了済み。やっぱり「桜の森の満開の下」が別格だと思った。「夜長姫と耳男」にも「桜の森の〜」に似たようなところがあり、いずれもむごたらしさの中に不思議と透明感を感じる美しい作品だ。初めて読んだ「アンゴウ」は意外なまでに清々しい結末が気に入った。また、方向性はだいぶ異なるけれど、「風博士」の滑稽な文体には何度読んでも笑ってしまう。ファルスっていうのかな? 本書の前半は半年ぐらい前に読んだはず(ずっと積んでた)なんだけど記憶がすっかり抜け落ちている…。

「諸君、彼は禿頭である。然り、彼は禿頭である。禿頭以外の何物でも、断じてこれある筈はない。彼は鬘を以て之の隠蔽をなしおるのである。ああこれ実に何たる滑稽! 然り何たる滑稽である。ああ何たる滑稽である。(風博士)」


桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。(桜の森の満開の下)」


「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ(夜長姫と耳男)」


■道草 (新潮文庫)

道草 (新潮文庫)

道草 (新潮文庫)

ストーリーを大雑把にまとめると、カネがないと言う養父が主人公にたかってくるという話で、読んでいて楽しくなるようなものではない。金の要求の仕方がすごくいやらしかったり、主人公の健三にも偏屈なところがあったりで、なんだかこっちまで辛くなってくる。健三はたびたび「己の所為じゃない」「己の責任じゃない」と考えるし、「世の中に片付くなんてものは殆んどありゃしない」とも言っているし、「なるようになるだけだ」みたいな諦めがあるのかな。うーん…

「無信心な彼はどうしても「神には能く解っている」と云う事が出来なかった。もしそういい得たならばどんなに仕合せだろうという気さえ起らなかった。彼の道徳は何時でも自己に始まった。そうして自己に終るぎりであった。」

理系っぽい本

■形態学 形づくりにみる動物進化のシナリオ (サイエンス・パレット)

生物のかたちはいかにして生まれたのか? 多様な形態も基本的な型から逃れられないのはなぜか? 本書では、ゲーテの時代の比較形態学・分類学から説き起こし、現代に至るまでに得られた知見を紹介している。形の起源を問うからには時間を遡る必要があるので、本書の中心的な話題は進化と発生だ。「単純な繰り返しパターンと、位置価に応じた特殊化」というのは個人的にすごく惹かれる言葉だし、その位置価を指定するホックス遺伝子についてはもっと知りたくなった。アカデミックな雰囲気の漂う(?)文体で、レベルは新書にしては結構高めかな。


■エッジエフェクト(界面作用) 福岡伸一対談集

エッジエフェクト(界面作用) 福岡伸一対談集

エッジエフェクト(界面作用) 福岡伸一対談集

生物学者・福岡伸一と様々な分野の人との対談集。タイトルの「エッジエフェクト」は、そのような異分野間に生じる「界面作用」に由来する。話題になるのは科学について、真善美について、オスとメスについてなどなど様々。森村泰昌氏との対談における、「科学的な真偽・倫理的な善悪といった価値判断は均質化の圧力としてしばしば賛同を迫ってくるが、それに対抗し得るのは美しさの判断という極めて個人的なものだけだ」みたいな話が面白かった。ただ、福岡伸一の対談でいえば、「せいめいのはなし」の方が全体的に興味深かったような気もする。


■物理数学の直観的方法―理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬〈普及版〉 (ブルーバックス)

厳密だが結局何がしたかったのか分からない本や、「単位がとれる」と謳うスカスカな本とは異なり、数式が意味することをイメージするための本である。矩形関数からフーリエ級数の直感的理解に導いたり、複素積分で1/zの項だけ残る理由を回転の相殺といったり、熱的/情報論的エントロピーやベクトルのrotの意味を説明したり…。なお、最後の「後記」では行列の性質を社会的相互作用に敷衍した議論が展開されているが、線型性(一般には成り立たないよね?)を暗黙のうちに前提としていることに注意されたし。例え話としては面白いけれども。


エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)

ゲノムが全てではなかった! ゲノムを膨大なテキストからなる書物とすれば、エピジェネティックな制御はその書物に対して付箋や伏字を付加する指示に相当する。その分子的な基盤はヒストンの修飾(アセチル化・メチル化等)とDNAのメチル化であり、それらが遺伝子発現を活性化したり抑制したりといった制御を行っているのである。植物の春化現象・女王バチの発生・記憶など、生命現象の様々な側面に影響を及ぼしている。HONZに書評を掲載している仲野先生の文章も分かりやすい。エピジェネティクスの今後をこっそり見守っていきたいと思う。
エピジェネティクスに関与するたんぱく質の設計図も勿論ゲノムの中に含まれているわけで、自らの産物が自らを制御しているというのは面白い。

大人の科学マガジン Vol.30 (テオ・ヤンセンのミニビースト) (Gakken Mook)

数年前に付録目当てで買った。オランダで活動する芸術家テオ・ヤンセンの「ストランドビースト」(風を受けて歩行する機械)の模型が付いていて、いろいろと楽しめた。雑誌にはテオ・ヤンセンへのインタビューや、彼から影響を受けた作品の写真などが掲載されている。意外にも彼は設計の過程において実際の生物をあえて模倣しないようにしたらしく、リンク機構もコンピュータシミュレーションによって生み出したらしい。

ちなみに、テオヤンセンの機構は以前アニメーションにしたことがあります↓
roomba.hatenablog.com
roomba.hatenablog.com



■新 物理の散歩道〈第1集〉 (ちくま学芸文庫)

新 物理の散歩道〈第1集〉 (ちくま学芸文庫)

新 物理の散歩道〈第1集〉 (ちくま学芸文庫)

なかなか見つからなくて第2集を先に読んだけれど、こちらの方が数式は少なめかな? 富士山の裾2割は地球の丸みによって東京からは見えていないとか、垂れた水飴はなぜとぐろを巻くのかとか、紙風船をポンポンすると膨らむのはなぜかといった、身近な現象についての考察が面白い。入院時に勝手に点滴の流量を調整して感心している人もいる。ゲストの外山滋比古氏を放置して議論に熱中しているところは楽しそうだ。ロゲルギストの実体は日本人物理学者のグループなのだが、当時の書評に「日本語訳が下手だ」と書かれたという笑い話があるらしい。


■芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム (ブルーバックス)

うーん…一風変わった芸術論として読む分には面白いのかもしれない。ブルーバックスとしてはちょっとどうなのかな?と思う。神経科学・脳科学の知見を芸術に結びつけて論じているのだけれど、どこまでが実験的事実に基づくものなのか、こじつけではないという根拠があるのか、判然としないところが多い。例えば「人間の脳を超える宇宙創造の原理と人間の脳がコミュニケーションできる機能が脳内に存在している。」とあるが、何をもってそう言えるのか? 事実と意見とを注意深く見極めながら読んでいく必要があるだろう。あまりお勧めはできない。


教養・その他

■謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)

謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)

謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)

カラマーゾフの興奮冷めやらぬうちに。同じ江川氏による「謎解き『罪と罰』」と同様に、ロシア語の微妙なニュアンスやキリスト教の知識・作者自身の創作ノートまで遡り、説得力ある「謎解き」が展開されている。カラマーゾフ・ドミートリイ・アレクセイという名前の由来、ゾシマ長老と大審問官の対比、白いキリストと黒いキリスト、イワンの悪魔と○○、去勢派、一本のねぎの意義、etc。自分はまだまだ全然読み解けていなかったなあと思ったが、一番根本的な、カラマーゾフというあり方に対する認識については間違っていなかったようでひと安心。


ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集

待望の紀行文。「ラオスにいったい何があるというんですか?」とは、中継地のハノイでヴェトナム人から受けた質問だ。では、ラオスにいったい何があったのか? 「まだ明確な答えを持たない」と村上さんは言う。ささやかな土産物のほか、いくつかの光景の記憶が得られただけ。「しかしそもそも、それが旅というものではないか。それが人生というものではないか」。無性に旅行に行きたくなった。特に魅力を感じたのは、アイスランドラオスフィンランドオレゴン州ポートランドなど。その他ボストン・ギリシャ・トスカナ・熊本なども収録。

文学のふるさと

可憐な少女がムシャムシャ食べられてしまう「赤頭巾」の、むごたらしい美しさ。鬼瓦が女房に似ていると泣き出す狂言の、のっぴきならない重み。『伊勢物語』のある一話にみられる、凄然たる静かな美しさ。これらの救いのない物語に共通する宝石の冷たさのようなものは、絶対の孤独 - 生存それ自体が孕んでいる絶対の孤独、そのようなものではないかと安吾は述べる。そのようなものの中に文学のふるさと、人生のふるさとがあり、文学はそこから始まるのだ、と。たしか高校の教科書に載っていて、これをきっかけに安吾の作品を読み始めた。名文。

「その余白の中にくりひろげられ、私の目に沁みる風景は、可憐な少女がただ狼にムシャムシャ食べられているという残酷ないやらしいような風景ですが、然し、それが私の心を打つ打ち方は、若干やりきれなくて切ないものではあるにしても、決して、不潔とか、不透明というものではありません。何か、氷を抱きしめたような、切ない悲しさ、美しさ、であります。」


「それならば、生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私は、いかにも、そのように、むごたらしく、救いのないものだと思います。この暗黒の孤独には、どうしても救いがない。我々の現身は、道に迷えば、救いの家を予期して歩くことができる。けれども、この孤独は、いつも曠野を迷うだけで、救いの家を予期すらもできない。そうして、最後に、むごたらしいこと、救いがないということ、それだけが、唯一の救いなのであります。」


■禁酒宣伝百人一首

禁酒宣伝百人一首

禁酒宣伝百人一首

こちら↓で紹介されていた。
cocolog-nifty.hatenablog.com


大正14年出版で、無料で閲覧できる(近代デジタルライブラリー - 禁酒宣伝百人一首)。
特に好きだったのは、
「飲過ぎて川に落ちたる酔どれの ころも乾すてふあまの香具山」
「目が覚めて漸く酒の害を知り かこち顔なるわがなみだかな」
「信用も地位も名誉も酒故に くだけてものを思ふころかな」
「禁酒した後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり」。
他には、
「呑つぶし夜逃をしたる其跡は 唯有明の月ぞのこれる」
「酒呑が夫婦喧嘩で泣き叫ぶ 聲きくときぞ秋は悲しき」
あたりも切ない。お酒って怖い…


■楽しい古事記 (角川文庫)

楽しい古事記 (角川文庫)

楽しい古事記 (角川文庫)

「古典はおもしろい部分から入門するのが私のモットーだ」ということで、3ページ目には早くもイザナギイザナミがまぐわっている。古事記のことは全然知らなかったが、解説に書いてあるように、「まぐわって、歌って、殺す」物語であった。古事記の内容を紹介するだけでなく、縁のある土地を著者の阿刀田氏が実際に訪れる紀行文的な要素もあり。固有名詞が多くて一度では覚えきれなかったが、楽しむことはできた。高千穂に行きたい。


おわりに

今月の個人的ランキングは、

といったところです。カラマーゾフが圧倒的でした。


先月分はこちら↓
roomba.hatenablog.com