roombaの日記

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2015年6月に読んだ本まとめ

はじめに

5月に読んだ本をまとめたばかりですが、引き続き6月に読んだ本たちです。roomba.hatenablog.com


今回は、「小説(海外)・小説(国内)・ゆるいエッセイ・昆虫/植物・ノンフィクション」に分類しました。各本について、タイトル・リンク・読書メーターに書いた感想(一部追加・修正あり)の順に記します。↓↓↓

小説(海外)

名作と呼ばれる海外の作品をいくつか読みました。名作というと難しそうなイメージが伴うことが多いのですが、どれも普通におもしろかったです。

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

基本的には一族の物語であり、付属の家系図が大まかな流れを物語ってくれる。複数いる同名の人物が似たような特徴を有していたり、類似した人間関係や行動が別々の世代に見られたりといった相似的な構造が一族内に見られ、既視感を感じることも度々ある。さらに、家系図で最後に生まれる某人物と同様の特徴を持つ人物が、家系図の一番上のウルスラの親戚にも「恐るべき先例」として存在していたことが示されるなど、物語で描かれる一族の範囲外との相似性もあるのではないかと思われる。そう考えると、物語以前にも百年の孤独を運命づけられた家系が存在していたのではないかと想像(憶測だけど)してしまう。マコンドと同様に人間の記憶から消え失せてしまっただけで。 …なんだか構造っぽい話ばかりになったが、名作と呼ばれるだけあって細部まで読みごたえのある濃密な物語で、読後にはマコンドの空気を確かに心の中に残してくれた。


罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

誰かを犠牲にして他人の幸福を実現させようとする行為が散見される。ラスコーリニコフは彼なりの正義で老婆を殺したり手持ちの金を殆ど他人に譲ったりするし、妹のドゥーニャは兄と母のために結婚を試み、マルメラードフの娘ソーニャは家族のために娼婦をする。そんな「正義」を信じるラスコーリニコフが妹の結婚を認めないことや、彼とソーニャとの出会いが、物語の深みを増しているように思う。好きな場面は、マルメラードフが臨終のとき妻が司祭にくってかかるところと、終盤の論文についての議論。


罪と罰〈下〉 (新潮文庫)

罪と罰〈下〉 (新潮文庫)

罪と罰〈下〉 (新潮文庫)

上巻の終盤に「犠牲をあわれに思ったら、苦悩したらいい」と言い放ったラスコーリニコフだが、下巻でもほとんど最後まで「過去に特に恐ろしい罪は何も見出さなかった。彼が恥じたのは、…無意味に身を亡ぼしてしまい…」と書いてある(苦しみ、自供はしたが)。そんな彼が最後にソーニャと二人きりになる場面で「生活」に目を開き、新たな未来を予感するところは美しい。ソーニャもかつては「いわれもなく自分を殺し、自分を売りわたした」者であり、「呪われた人間」だった二人はある意味ラザロのように(と言ってよいのか?)復活したのだ。


ファウスト〈1〉 (新潮文庫)

ファウスト〈1〉 (新潮文庫)

ファウスト〈1〉 (新潮文庫)

ゲーテの代表作。ゲーテ以前からファウスト伝説というものがあったことを解説を読んで初めて知った!飽くなき知識欲に燃えるファウストが悪魔と契約して…という話である。堅苦しいイメージがあり、数年前までは一生読まない本だと思っていたが、グレートヒェンとの関係を中心とする中盤〜後半はグイグイと一気に読めた。それに対して前半(特にファウストの独白)は圧倒的な言葉の力を感じる格調高い文章が多く、じっくり味わいたいところ。筋書きも文章自体も楽しめるお気に入りの本。


ファウスト〈2〉 (新潮文庫)

ファウスト〈2〉 (新潮文庫)

ファウスト〈2〉 (新潮文庫)

第一部よりもだいぶ壮大になり、ギリシャ神話やキリスト教の教養がない自分には一部しか理解できていないと思うが、翻訳と注釈のおかげで十分楽しめた。第一部のメフィストとの契約により、ファウストは「とまれ、お前はあまりにも美しい」と言ったときに滅ぶことになっていた。あらゆる経験をしたファウストが実際にその言葉を口にするときに見出した「叡智の、最高の結論」には、「なるほどそれかぁ」と思わされる。メフィストに言わせれば「中身のない瞬間」だが、それを見出したファウストメフィストの手を逃れて天上高く昇るのだ。


ヴェニスに死す (岩波文庫)

ヴェニスに死す (岩波文庫)

ヴェニスに死す (岩波文庫)

美しい文章が多いのだが、浮かんでくる光景はおっさんが美少年をつけ回したり、目が合ってドギマギしたり、おめかししたりといった滑稽な絵面で、そのズレにおかしみを感じてしまう(よろしくない読み方だが)。それにも関わらず本作品が美しいような哀しいような余韻を残すのは、主人公アッシェンバッハがただの変態ではなく地位のある芸術家であり、そんな彼が滑稽なほど情熱的に美を追い求めている点にあるのだろう。詩人は常に放埓で、感情の冒険家であり、どうしても奈落にひきつけられる自然の性向を有しているのだ。

小説(国内)

今月は日本文学をあまり読みませんでした。『勉強記』と『蝿』は、青空文庫で読めるお気に入りの短篇です。

二百十日・野分 (新潮文庫)

二百十日・野分 (新潮文庫)

二百十日・野分 (新潮文庫)

同時期に書かれた『二百十日』と『野分』。解説にある通り、『草枕』的な非人情を乗り越えようという漱石の決意を感じる作品であるように思う(草枕的な作品ももっと読みたかったけど)。特に野分は漱石の作品の中でも好きな方で、そこで終わるかという感じはあったものの、気に入った文がいくつもあった。
『野分』について:道也先生と高柳君はいずれも孤独だが、道也先生の孤独の方がおそらく「良い」孤独であり、物語終盤の道也先生の演説は高柳君に感銘を与える。この演説は『私の個人主義』を連想する熱い内容で、個人的に最も印象に残った。
タイトルの二百十日は9月1日ごろ、野分はその頃の台風のことらしい。当時の帝大は秋入学だった(と聞いた気がする)ので9月1日といえば入学の時期にあたり、そのような日付に関わるタイトルは『草枕』的非人情から人情への心機一転を象徴しているのではないか?と最初は思った。でも、解説を読む限り別にそんな訳でもなさそうだ…


■勉強記

夜中に目覚めてしまったので再読。とにかく言い回しが大袈裟で滑稽で、どのページでも笑えてしまう。「二三百年ぐらい前にコンゴーのジャングルからやおら現れてきたばかりだという面影」のある栗栖按吉は涅槃大学校で印度哲学を学びはじめ、「チベット語と屁の交るところの結果から詩の精神を知り、また厭世の深淵をのぞいた」というような経験をしたりする。その後いろいろとあり、按吉は悟りを諦めて「本当のこと」をしなければならないと思うようになるのだ。按吉は安吾自身と重なるところがあり、あるいは自伝的な小説なのかもしれない。


■蠅

蠅

読友さん2人につられて再読したくなった、お気に入りの短編。今回ふと思ったのは、「眼の大きな蝿」が『グレート・ギャッツビー』の「T・J・エックルバーグ博士の眼」に似ているということ。どちらも大きな眼であるというだけでなく、人間の運命を悠然と目撃している感じが共通しているように思う。ところで農婦は倅が死にかけていると騒いでいるが、友人によると「息子から危篤の電報を受け取った」としか書かれておらず、必ずしも農婦の「息子が」危篤だとは限らないとのこと!ふーむ、だとすれば農婦は取り越し苦労をしていたのだろうか?

ゆるいエッセイ

息抜きです。

シドニー! (コアラ純情篇) (文春文庫)

シドニー! (コアラ純情篇) (文春文庫)

シドニー! (コアラ純情篇) (文春文庫)

最初の方を読んだ段階では「ひょっとして真面目な本なのではあるまいか」と警戒したものの、シドニー日誌からはふざけた要素が加わったので安心した。動物園で動物を見る村上さんの視点が面白い。頭の悪そうなウォンバットに対して「原稿の打ち合わせをするときにフルーツパフェを注文する文芸誌の編集者みたいに見える」など。オリンピック関連では、「砲丸投げのおっさんたち」について「そのへんの力自慢のおっさんたちが、力試しをしているみたいな雰囲気」というあたりの描写に和んだ。見てみたい。


シドニー! (ワラビー熱血篇) (文春文庫)

シドニー! (ワラビー熱血篇) (文春文庫)

シドニー! (ワラビー熱血篇) (文春文庫)

シドニーといえば記憶にある最初のオリンピックだが、正直なところオリンピックにはあまり興味がない(じゃあ買うなよという感じだが)ので紀行文として読んだ。コカコーラ社を代表としたオリンピックの商業主義化を見た村上さんがバッグの検査で「これはラップトップだね?」「ノー、これはペプシだ」とジョークを言うところや、ハンドボールスウェーデン代表キーパーについて「やせて、頬がこけて、毎晩寝る前にキルケゴールを五ページずつ読むことを日課にしているような雰囲気がある」と書いているところが気に入った。

昆虫/植物

なんとなく昆虫や雑草の多様な生き方に魅力を感じています。

■昆虫はすごい (光文社新書)

昆虫はすごい (光文社新書)

昆虫はすごい (光文社新書)

多様な昆虫の驚くべき生活・行動を紹介する本。大部分が初耳だった。なかでもぶっ飛んでいるなと思ったのは、雄同士が交尾を行うというカメムシの一種。「雄の腹部の適当な部分に陰茎を差し込み、精子を送り込む」とのこと。適当にそこらへんに刺すのかよ……しかも著者は「以下、刺す雄をT君、刺される雄をN君として説明すると」という風に解説する。なぜA君B君ではなくてT君N君という意味ありげなアルファベットを選択したのだろう?? わかった人がいたら教えてください。それはともかく、虫に自分の血を吸わせて撮影するような著者でもケムシが大嫌いと知って少し安心した。


■身近な野の草 日本のこころ (ちくま文庫)

身近な野の草 日本のこころ (ちくま文庫)

身近な野の草 日本のこころ (ちくま文庫)

雑草・野菜・昆虫の『身近な〜』シリーズ3冊に続いて読了。雑草版と重複する内容も一部あるが、両方読む価値は十分あり、季節ごとに読み返したい一冊だ。本書は「日本のこころ」と題してあるだけあって、和歌を引用したり、日本人の生活と野草の密接な関係(もはや忘れ去られていることも多い)に触れていたり、植物の和名の興味深い由来を知ることができたりする。日本人は野草をカレンダー・おもちゃ・染料・建築材・薬といった様々な用途に活用してきたのだ。「価値あるものは、遠くにあるのではなく、私たちの足元にある」(あとがきより)。


■身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)

身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)

身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)

以前読んだ『身近な雑草/野菜〜』に続く一冊。生存をかけた攻防における昆虫の工夫は様々だ。外見で毒を誇示する虫がいれば、毒が無いくせに姿を真似る虫もいる。アリと共生する虫がいる一方で、アリを手なづけて巣に侵入し、幼虫を食べる虫もいる。生殖は特に壮絶で、交尾中にオスを食べようとするメスや、我が子に自らの死体を食べさせるメスがいる。へぇと思ったのは、セミの幼虫は導管液を吸うので成長が遅いが、成虫は師管液で効率よく栄養補給をすること。言われれば当たり前だが、クワガタとカブト虫の幼虫期間の違いも餌の違いによるのだ。

ノンフィクション

■進化の謎を数学で解く

進化の謎を数学で解く

進化の謎を数学で解く

知的興奮!適者が淘汰に耐えるのは常識だが、最適者はどこから来るのか?という疑問に答える本。作家ボルヘスはあらゆる文字列を含む「バベルの図書館」を小説に描いた(『伝奇集』*1)が、本書によれば生命にも代謝・タンパク質・調節回路の万有図書館が存在し、進化とはそれらの図書館上の探索であると捉えることができる。そして、最適者を生みだすのは万有図書館(その蔵書は拡張超立方体の頂点に置かれているとみなせる)の有する「ある構造」に由来するのだ。その構造とは、

  1. 生存可能性を保ったまま移動できる経路(遺伝子型ネットワーク)が万有図書館の広範囲に広がっていること
  2. そうした各ネットワークが図書館の中で絡み合い、緻密な織物を形成していること

の2つである。進化の過程では、(1)の経路に沿って図書館を歩いているうちに、(2)の理由によって生命のイノベーションを見つけてゆくのだ。すげえ。最後の章では論理回路の万有図書館についても考察しており、今後の進展に期待したくなる。
これから読む人には、ボルヘスの『伝奇集』に収められた「バベルの図書館」をあらかじめ読むことを勧めたい。図書館の比喩が本書では強力に効いている。 あとこれは個人的な妄想だが、生命の万有図書館に対応する「バベルの動物園」があったらどうだろう?死体しかない部屋も多いかもしれないが、きっとボルヘスの『幻獣辞典』よりも凄いだろう。


ケプラー予想: 四百年の難問が解けるまで (新潮文庫―Science&History Collection)

ケプラー予想: 四百年の難問が解けるまで (新潮文庫―Science&History Collection)

ケプラー予想: 四百年の難問が解けるまで (新潮文庫―Science&History Collection)

「球を最も効率良く詰め込む方法は、果物屋がオレンジを積む方法と同じ」というケプラー予想が証明されるまでの400年。次元を下げて円の充填を考えてみたり、ネットワーク的に捉えたり、格子配置に限定したり、最適化問題と考えたり、仕上げにコンピュータを使ったりと、こんな単純な問題にかくも様々なアプローチが存在するのか!と感心する。証明もどきもいくつかあり、なんとなく分かった気になれる。フェルマーの最終定理ほどのドラマはないが、幾何学的なものが好きな人には面白い話題がたくさんあった。ただ、あまり一般受けはしないかも?

■文様博物館 (マールカラー文庫)

文様博物館 (マールカラー文庫)

文様博物館 (マールカラー文庫)

カラーで約300円と安いのは、19世紀末にドイツで刊行された本を編集部が翻訳したことによるらしい。国/時代ごとに2ページずつ(左が文章・右が図版)となっており、読み物というよりは図鑑として少しずつ(お湯を沸かしている間とか)楽しんだ。模様は様々だが、幾何学的模様・植物模様・人物(キリスト教的なものを含む)あたりがどの国にも多く見受けられたように思う。個人的な興味のため幾何学模様ばかりに目がいってしまうのだが。それにしても、ラーメンの丼にある雷文模様がギリシャの時代からあったものだったとは知らなかったな……


■世界は文学でできている 対話で学ぶ〈世界文学〉連続講義

世界は文学でできている 対話で学ぶ〈世界文学〉連続講義

世界は文学でできている 対話で学ぶ〈世界文学〉連続講義

ゲストとの対談型公開講義を5つ収録。平野啓一郎の回が最も面白かった。彼のデビュー作『日蝕』は古めかしい日本語で書かれているらしいのだが、そこには「90年代に日本語を批評的に解体していく方向で、小説の文体をより豊かにしようと模索する動きがあった一方で、ボキャブラリーはかなり枯渇」していることへの問題意識があり、『万葉集』の頃からの膨大な語彙を活用した日本語の拡張を目指したそうだ。日本語(あるいは言語一般)は柔らかく崩れていく一方なのでは?と漠然と思っていたので、そういう試みの存在を知ることは興味深かった。

■20代で知っておきたいお金のこと

20代で知っておきたいお金のこと

20代で知っておきたいお金のこと

読んでみた。

おわりに

今月の個人的ランキングは、

といったところです。理系の人には『進化の謎を数学で解く』をおすすめしたいです。


roomba.hatenablog.com

*1:

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)